「最後に観覧車ってのは、定番やね」
「…ソウデスネ」
「相変わらず高いトコ苦手なん?」
「下を見なければ大丈夫だもん!横見てれば平気だもん!」
「ほな…」
向い合わせで座っていた状態から立ち上がると、観覧車が大きく揺れた。
「ほっ、蓬生っ!」
「あんたが俺の隣に座らんから、こないなことになるんよ」
今にも泣き出しそうな顔で必死に手摺にしがみつく姿に、苦笑する。
「そないなもんに掴まらんと、俺にしがみつき……ほら」
なるべく揺れんよう気遣いつつ、の隣に腰を下ろすと、その小さな身体を抱きしめた。
「あんたがこうしててくれれば、俺も動かんよ」
「ほ、ほんと?」
「あぁ」
「絶対?」
「信用ないんやね、俺」
「うん」
手摺の代わりに俺にしがみついてくれたんはうれしいけど、その台詞はうれしゅうないわ。
「ほな、信用ない俺がこうしても怒られへんな」
「ふぎゃああっ」
しがみついていたのをいい事に、彼女の膝裏に腕を通すと、あっという間に小さな身体を膝の上に横抱きにかかえた。
「ばっっ、馬鹿蓬生っ、なっ、なっ…」
「抱きしめとったら、一緒の景色見れないやん。だから、こうしたんよ」
「ひとこと言ってからやって!」
「言うたら、絶対嫌って言うやん自分」
「うんっ!」
「せやから、こうして強硬手段に出たんよ」
長い付き合いから、これ以上何を言っても無駄と悟ったのか。
強引に横抱きにした状態から、恐る恐る身体を動かして落ち着く場所を見つけたは、ようやく外の夜景へと視線を向けた。
「うわぁ…」
「ほら、見てみ。あっちが星奏学院のある方やで」
「あっち?」
「そう…で、あっちが中華街で、あれが山下公園」
「へぇ…」
俺の首に手ぇを回した状態で外を示せば、楽しそうに視線を向ける。
そんなを見ながら、俺はもう少しで到着するてっぺんへと視線を向けた。
「なぁ、…知っとう」
「なにを?」
ゆっくり、ゆっくり…回る観覧車
どんどん、どんどん、近づいていく…自分たちだけが手に出来る、一瞬の頂点
「観覧車のてっぺんにおる時キスしたカップルは、永遠に幸せになれるんやて」
「……」
「もうすぐ、てっぺんやけど………どうする?」
きょとんとした瞳が一度俺を見て、次にてっぺんを示すもんに視線を移した。
あと、少し…
あと…5.4.3.2……
ガチッ!!
「…………」
てっぺんにつく直前、首に回されとった手に力が入ったのはほんの一瞬。
その後、僅かな歯の痛みと共に重ねられた唇。
視界に飛び込むんは、邪魔なもんがなんもない夜景じゃなく…真っ赤な顔して、これでもかってほどぎゅっと目ぇつぶっとるの顔。
ゆっくり、ゆっくり…回る観覧車
てっぺん過ぎたら、あとは…空から地上へ降りていく
「〜〜〜〜〜ぷはっ!」
息を止めていたのが丸わかりな状態で離れたけど、俺はまだ…声も出ん。
「ほ、蓬生…苦しく、ない…の…?」
「…ない」
「楽器やってるから?ん、でも管楽器じゃないから関係ない?」
「なぁ、なんで…?」
俺からキスしよ、思うとったのに…なんで、あんたからするん。
あんた、苦手やん…こういうん。
いつもみたいに、そう告げればええのに…なんで俺、声出ぇへんねん。
「…嫌、だっ…た?」
「そないなわけない!」
嫌なわけない。
そこだけは完全否定せなあかん思うたら、予想外に大きな声が出た。
「嫌なわけないやろ。嫌やったら、あないな話せん」
「よかったぁ…」
あぁもう…そない無防備に笑わんといて。
ただでさえ、色々おかしゅうなってるのに…これ以上、おかしゅうさせんといて。
どんどん近づいてくる地上
二人きりで天に居れる時間は、あとわずか
「あのね、てっぺんにいる時キスしたら今の蓬生との幸せがずーっと続くんだって思ったら、体が動いちゃったの」
「……動い、た」
ほんま、あんたは面白いくらい単純やね。
頭やのうて、体が動いた…なんて。
どれだけ俺が策を練っても、意味ないやん。
「で、その…なんか、口とか痛かったけど…蓬生、怪我とかして、ない?」
もうすぐ地上へ着くからか、膝の上から降りようと床に足をつけようとしたの足を押さえる。
「怪我の確認…しとうない?」
「え?」
係員の姿が確認出来る位置まで来たところで、の頭を胸に押し付けると、そのまま二人分のフリーパスを窓の向こうにおる係員へ見せた。
「もう一周、お願いしてもええやろか?」
「!?」
閉園時間間近ということで、客もおらんかったからか、係員はOKの意味を込めて親指を立ててくれた。
一度地上に降りたゴンドラが、再び空へ舞い上がる
「ちょ、蓬生!?」
押さえつけていた手を緩めれば、何か言いたげにが顔をあげた。
そんな彼女の唇に指を押し当て、微笑んだつもりだったが…そん時、俺はどんな顔しとったんやろ。
が目を大きく開けて、言葉を飲みこんだ。
「あないなプレゼントもろたら、俺もお返ししとうなるわ」
「…蓬生」
「な…今度は俺から永遠誓わせて」
揺らぐ視界を誤魔化すよう、微笑みながら顔を近づける。
「俺からあんたに…キス、させて」
あぁ…今はまだ、てっぺんやないね
けど、もうあかん…
あないなことされて、あんたにあんな風に言われたら…
キュン死にどころじゃ、すまへんわ
最高の誕生日プレゼント、ありがとう
★ Happy Birthday ★
土岐蓬生
久し振りに誕生日のお話を書きました(笑)
という訳で、改めてお誕生日おめでとう!蓬生。
ゲームの中で誕生日を祝っちゃうキャラなので、ある意味大変というか縛りがあるというか(苦笑)
それでも、思いついて書いたらば…書き終えた本人が砂吐くぐらい甘くなりました。
…本当は更に長くなりそうだったので、強引に切りました。
おかしいな…てっぺんでちゅー、だけだったのに…元ネタ。
それを当初予定は蓬生だった、が、相手からってのにしたら長くなった。
最後の甘えるような感じが書きたかったというか、好きなんです(笑)